Arthur Verocai (1972)

 ブラジリアン・レア・グルーヴ至高の名盤がリマスターの上復刻された。もちろん日本国内盤としてである。ブラジル音楽にそれほど詳しくない自分でもわかる。これは確かに素晴らしい輝きを放つ至宝の作品であると。 

 アルトゥール・ヴェロカイはイヴァン・リンスのデビュー作からアレンジやプロデュースで携わっているなど1960年代から今日に至るまでのその長い音楽キャリアをほとんど裏方に徹してきた。そんな彼が若き日に吹き込んだ自身初のアルバムがこれだったわけだが、まさに自己を表現するための一作入魂のアルバムだったに違いない。これを超えるものは作ることができないと言うほどの完成度の高いものになってしまったためその後再びミュージカルサポート役に身を置く事にしたのだろうか、ただ単に当時のセールスが芳しくなく次作制作の機会に恵まれなかったかどうかはさだかではないが、自分の性格上前者を推測してしまうほど当時の音楽として究極の作品が生まれていた事は間違いない。 

 全編ポルトガル語で歌われるこのアルバムはMPBの次世代が目指したところの根幹ともなりうる要素が満載で、ラテン・ミュージックをジャズとポップで融合したボサノヴァをさらに大きく超えたスケールで音楽を捉えており、アシッド・フォークとサイケデリック・ロックのエッセンスも感じつつ、クロスオーヴァーなジャズへのアプローチを行ったインストルメンタルでアルバムを終えるところなどはもはや芸術的である。シンガーソングライターでありギタリストであるに留まらず、アレンジやプロデュースも自分で指揮を取ることができるトータル・アーティストであった彼はまず自らの音楽性を全て出し切る事に力を注いだのだろう。その結果生み出された数々の曲は40年以上経た今でも間違いなくさまざまな音楽家に影響を与え続けるものとなっている。

 これは歌や楽器の技巧を注視するアルバムではない。あくまでも聴く者のセンスに訴える作品だ。ブラジリアン・ミュージックを芯に、ポップでありフォーキーでありサイケデリックであり時にはジャズ・クロスオーヴァーである音世界とこの時代の持つレア・グルーヴの空気感が生み出すまさに奇跡のアルバム。全ての音楽ファンへ耳にしていただきたい一品と言えましょう。(2016/8/26)




01.CABOCLO
02.PELAS SOMBRAS
03.SYLVIA
04.PRESENTE GREGO
05.DEDICADA A ELA
06.SERINADO
07.NA BOCA DO SOL
08.VELHO PARENTE
09.O MAPA
10.KARINA


Produced,arranged and directed by Arthur Verocai


Arthur Verocai (g,vo)

Aloisio Milanez Aguilar (p,el-p)
Nivaldo Ornelas (ts)
Rebertinho Silva (ds,perc)
Pascoal Meirelles (ds)
Pedro Santos (perc)
Luiz Alves (b)
Paulinho Trompete (tp)
Oberdan Magalhaes (sax,fl)
Sarginho Trombone (tb)
Luis Paulo (syth)
Paulo Moura (as,ss)
Edson Maciel (tb)
Helio Delmiro (g)
Celia (vo)
Carlos Dafe (vo)
Gilda Horta (vo)
Luiz Carlos Batera (vo)
Paulinho Trompete (vo)





TOP