古川初穂ピアノトリオ/おくにうた (2010)
|
私は、センスを感じる音楽が好きだ。それではそのセンスと言うモノ、何を基準にしているのかと言われれば、恥ずかしながら主観によるものとしか答えられないが、とりわけピアノトリオによるジャズ・アルバムという、普段自分が主として聴いているものでは「ない」音楽に対してここまで引きつけられるものを感じたのは、そのセンスの良さ、感覚的に訴えてくるものが強かったからに他ならないと思うのです。あなたがジャズ・ピアノに求めるものは何でしょうか。おそらく、このアルバムにはその全てがしっかりと存在しつつ、ジャズがアプローチできる「次の一手」が発見できるものにもなっていると思います。
「おくにうた」、このアルバムは一言で言ってしまえば日本の民謡やその土地土地をバックに作られ、歌われてきた歌謡曲等のジャズ・アレンジ集。元々、古川初穂ピアノトリオ(古ピト)が全国でライヴをする時にその土地にゆかりのある曲を「ご当地ソング」としてピアノ・ジャズナンバーに再アレンジし一曲披露していたのが好評で、古ピト名物となっていた企画が一枚のアルバムになったわけですが、一度演奏した曲は二度とやらない決まりになっているそうで、素晴らしいアレンジなのにその掟は厳しすぎると再演を望んでいたファンにはこうしてCDとして何度も聴けるようになったわけです。私自身も2年前に生の「東京ラプソディー」を聴いた時は、これが二度と聴けないなんて、なんともったいない事かと思ったものでした。
(詳しくは当時のライヴレポをご覧ください→コチラ)
さて、ご当地ソングのジャズ・アレンジ集と言うとわかりやすいのですが、ほとんどがまったく別モノの仕上がりになっていると言っても過言ではありません。知らずに聴いたら元歌に気付く人は少ないのではないか、と思えるほど一曲一曲がひとつのピアノ・ジャズナンバーとして独立しているかの様なのです。原曲のメロディーをチラつかせつつ、変幻自在に繰り広げられていく古ピト・ワールド。けっして陳腐なカバー集ではない事だけは強調しておきたいところですね。とにかく一発目の「雨の御堂筋」からヤラれちゃいます。インタープレイの高揚がスリリングで、こんなクールな古ピトもカッコいい。続く「会津磐梯山」、「水戸黄門のテーマ」は比較的元メロを大切にしたアレンジながら、やはり途中から別方向に飛んで行ってしまうわけで、イントロから展開されるコード進行の意外性が素晴らしい。そして続くはお待ちかねの「東京ラプソディー」。これを収録してくれたのは本当にありがたかった。実際に生の貴重な体験をした身としては、マイナーからメジャー・コードに変わるサビの部分に、あぁこのままいつまでも聴いていたいと感じたあの至福の時が思い出されました。
オリジナルのジャズ・アルバムと思わせてしまうほどの濃密なアレンジでありながら、「あなたの街にゆかりのあの歌この歌…」そのタイトルも「おくにうた」。この余裕がいいですよね。それは「難しく考えないで楽しんでネ。でもこの、音楽的な懐の大きさは感じてネ。」と言っているようであり、それでいてテクニカル・プレイヤーとしての確固としたモノを持つ3人だからこその、聴く人個々のセンスに訴えかけてくる、新しい日本のジャズ、その提示がさりげなくされているのではないかと。でも、忘れちゃいけないのが最後をシメる唯一のオリジナル「little
flower」に象徴されるような古川氏の優しさ。古ピトのLIVEに足を運ぶ方は、その本質を愛しているのではないかな。あれこれ理屈をつけるより、とにかくLIVEに行きましょう。そうすりゃわかるさ。(2010/6/2)
|
|