Kenny Pore/inner city dreams (1984)
 
 インストルメンタル物が自分にとって一番に光り輝いていたのは、やはり、70年代に最高潮に達したクロスオーバー・ブームの頃だったわけで、商業的にウマ味があったのも事実とは言え、「新しい音楽」として注目されるとともに意欲的な名盤が数々世に出ていたように演奏家自身、音を作り、表現する事に対するモチベーションが高くなっていた時代の音楽であったからなのです。その後に来るのがよりエンターテイメント性を強めたインスト、フュージョンの時代。異論はあるでしょうがどこか演奏家の姿勢も音自体も軽くなって行った感のあるフュージョン、それでも当時はまだ楽しみながら聴き続けていたものでした。しかし、音楽のデジタル化によってそのフュージョンも衰退の一途を辿る事に。そして、ただ耳触りの良いだけの、音楽家としての音作りへの姿勢や意図に確固としたものが感じられないスムース・ジャズにはもはや興味をそそられるものが無く、耳を傾ける事から遠ざかってしまった人も多いと思います。

 このKenny Poreはそんなスムース・ジャズの領域に入るところから寸での所で踏みとどまった感のある、この「inner city dreams」でデビューしたギタリスト/ソングライター。1983年レコーディングのわりにはデジタル・ミュージックの影響など全く感じさせない、とてもヒューマンかつクールなフュージョン・ミュージックをアルバム全般に渡って繰り広げていて、その時代からの「乗り遅れ感」が今となってはノスタルジックでありながら新鮮な存在なのでした。彼のギターと言うよりは、プロデュース、ソングライティング、アレンジまで携わった彼自身の音世界を聴くアルバムとなっており、一言で表現するならリック・リソーが歌うヴォーカル・ナンバーも交えたAOR/フュージョン・アルバムと言う事になるのですが、何しろヴィニー・カリウタ&ジョン・パティトゥッチのリズム・ユニットを中心とした強力なバック・サポート体制に、K・ポアーの示すクールな視点の曲調がなんともカッコ良い。惜しむらくは全6曲と言う曲数の少なさであり、そのうちアルバム・タイトル曲に初っ端のヴォーカル・ヴァージョンとラストのインスト・ヴァージョンの2曲を収録しているので正味5曲のバリエーションしかないのは物足りないかな。このスタイルならせめて各サイドに1曲ずつ足して合計8曲が望ましかった所ですが、しかしどの曲も粒揃いで無理に挿しこんだような捨て曲は無く、30分強で気分良く一気に聴き通せるのがかえって良いのかなと。黒人と白人の少年が同じ方向を見つめて物思う、憂いのある姿のジャケットが、このアルバムの本質を表していますね。テクニカルフュージョンよりも切な系のアダルト・コンテンポラリーを求めている方におすすめです。(2011/8/13)


SIDE・A

01.INNER CITY DREAMS (vocal) →
02.ENDURANCE
03.SUNSET

SIDE・B

01.FROM THE HEART (it's got to be)
02.EVERYONE NEEDS SOMEONE LIKE YOU
03.INNER CITY DREAMS (instrumental)



Executive Producer: Michael Dion
Producer: Kenny Pore
Associate Producer: Pat Coil

Pat Coil (key,syth,p)
Hadley Hockensmith (g)
Robben Ford (g)
Kenny Pore (g)
John Patitucci (b)
Vinnie Coliauta (ds)
Brandon Fields (sax)
Rick Riso (vo)
Ron Snider (perc)

all words & music written by Kenny Pore
arrangements by Kenny Pore & GROUP





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