吉沢梨絵/juicy (2000)
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実のところ、この吉沢梨絵のアルバムを耳にする事になったのはつい最近の話だった。
きっかけは角松敏生。この人は元々自分にとっては食わず嫌いな人で、いまだにまともにアルバム一枚聴いたことがない。子供の頃から好んで聴いていた達郎の二番煎じが出てきやがってこの野郎、と言うわけではなく(笑)歌声がどうも馴染めなかったんですね。だからこの人に限らず80年代にウヨウヨ現れたシティ・ミュージックの優しげな歌声の男性ヴォーカリストはほとんどレコードを買うことはありませんでした。
で、ある日youtubeで遊んでいたらそんな聴かなかった彼の“all is vanity”を耳にしてしまったわけですね。はは、なんじゃこりゃ、こりゃ“merry-go-round”じゃねえかと。なんだよ正真正銘のパクリヤローだなこいつは、なんて思いつつも気持ち良くwww聴いていたらまた新たなパクリ発見、途中のギター・ベース・ドラムのソロがそっくり“brother
to brother“だったと。なんだよ達郎とジノ・ヴァネリのミックスなのか。さすがにそこまで露骨だと、これはわざとわかるようにやってるな。これはパクリではなくオマージュなのであろう、と勝手に決め付け、彼の他の曲が何をオマージュされたものなのか探ってみたくなり、youtubeをさらに探って行くうちに出てきた名前、それが吉沢梨絵。彼女なのでした。
角松敏生がプロデュースした“サヨナラはくちぐせ”と言うナンバーがまた気持ちの良いJ-POPで、こういった歌謡曲チックなポップスも嫌いではない自分は、なんといっても伸びがあり通る彼女のヴォーカル、また当時流行っていた和製R&B的な要素もチラつかせつつ、品があり素直な女性らしさが感じられる歌声にヤラれてしまいました。youtubeで何回も聴くだけでは飽き足らず、アルバムを買ってみようと言う事になったわけです。
その“サヨナラ〜”が収録された1st「sweet revenge」もとっても良いアルバムなんですが、ビックラこいちゃったのがこの2ndである「juicy」。これはいったいなんなのだ、と。吉沢梨絵のアルバム?いや、確かに彼女がほとんど歌っているのには間違いないが、なんでインストのオープニングで始まり、後半に全く彼女の声が現れないそのフルバージョンが収録されているの?しかもそのインストのレコーディング・メンバー、Tom
Keane,Bill Champlin,Jason Scheff,Michael Landau,Curt Bisquera,SEAWINDホーンズ...ってなんだよこれ! と。
いや、彼女が歌う本題の曲の数々も捨て曲皆無で、バシバシ入るinterludeと共に全体の良い雰囲気を持続させ続けており一枚一気に聴かせてしまう力のあるアルバムとなっていて、これは相当アーティスティックに彼女を売り込んだ作りになっていたのだなぁと関心してしまうわけです。しかしコレ、スタッフも大変に楽しいプロジェクトだったのではないかと推測できますねぇ。特に“no..,NO!”におけるJay Graydonのギター・ソロは彼のソロの中でもかなり濃いフレーズを出しているレコーディングではないかと。五指に入る、とまでは言いませんがベスト20くらいにはランクインするんじゃないかなぁ。だってすごーく“peg”してるんですよ。
と、結局はこれが言いたかったんじゃないの?ってくらいまわりくどい話でしたが、youtubeがなかったら、食わず嫌いな角松敏生をつい聴いてしまわなかったら、この吉沢梨絵に出会う事もなかったし、このJay
Graydonのソロを耳にする事もなかったと。2000年はもうすっかり音楽に対して萎え萎えでしたからね。そんな廻りまわって次々と驚きの出会いをした事が嬉しかったわけです。
そう、2000年に発売されたアルバムでしたが、これは早過ぎたアルバムでも時代遅れのアルバムでもなかった。ただ、やっている音楽(J-POP)のわりにはターゲットとなる者が少なかったのでしょうね。流行ったR&Bシンガーの線を狙いつつもどこか真の彼女のキャラクターとは噛み合っていないようで、若者向けとしてはちょっとズレていて、アダルトに対してもアピールし難い、ましてや同姓ウケを狙うものでもないと。そしてこの時代にこのマニアックな制作のアルバム。ジャケットでのイメージ戦略としての不可解さも加わって推測通り、これは売れなかったと言う話。おそらく相当の「赤」ではなかったかと。しかしこのおかげで彼女のアルバムがもう作られないとしたらもったいない話とは思いますが、その後彼女は四季で活動したりと劇団でその才能を羽ばたかせているそうです。(2016/3/7)
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