Gino Vannelli LIVE REPORT (Cotton Club Tokyo 2011/9)

Gino Vannelli LIVE REPORT (Cotton Club Tokyo 2012/11)


 カナダが生んだ孤高の激情型シンガー、ジノ・ヴァネリ。1970年にVan Elliとしてデビュー。その後アメリカ大手のA&Mレコードに移籍して本名にて再デビューし、兄Joe Vannelliと共に個性の強いポヒュラーサウンドを築き上げてきました。ジノ・ヴァネリ・ミュージックをあえて一言で表現するなら、「ドラマティック」。時代の流れに乗らざるを得なかった80年代後半のライト志向アルバムもありますが、その後のライヴではA&M時代の曲をセレクトし、90年代以降は落ち着きを取り戻してメロディアスナンバーで綴られたアルバムを数作発表しています。誰々風などという言葉を寄せ付けず、また、後に続くフォロワー・ミュージシャンも現れないほどの圧倒的個性は、万人を対象としたポピュラー・ミュージックの中で活動するミュージシャンとしては貴重な存在と言えるでしょう。
crazy life (1973)
 ハーブ・アルパートに認められプロデュースされた記念すべきA&M再デビュー第一弾。セルフプロデュースではないためにグッと落ち着いたヴォーカルアルバムとなっていますが、やはりデビューしたてでは製作者サイドの意向に沿うかたちのアルバム作りになってしまうのだな、と感じさせるほどその後のアルバムとははっきりと線引きができてしまいます。しかしながらすべての曲をジノ自身が作り、アレンジはジノ&ジョーのバネリ兄弟が行っているところから、一作目にしてすでに二人の才能に任せているのは正解。落ち着きのあるナンバーが中心ながらも個性豊かなバネリ・サウンドのプロローグとして十分に内容のある作品となっている。タイトル曲はライヴでも披露していましたが早くもAOR的テイストの出ている佳曲で中盤のシンセ・フレーズが良い。個人的には起伏に富んだアレンジが次々と飛び出す“great lake canoe”〜“cherizar”〜“one woman lover”と流れるB面が好み。
powerful people (1974)
 ジノの代表曲と言える“people gotta move”で始まるセカンド・アルバム。ここから、「Brother to Brother」までどういう意図(ただのインパクト狙いかもしれませんが)があったのか、今回のようにアルバムタイトルの頭文字に韻を踏む(P〜P)ようになりました。録音に名エンジニアTommy Vicariが絡んでいました。前作の消化不良を晴らすかのようなエキサイティングな歌いっぷり。“jack miraculous”ではジノの放つロマンティックなメロディに高速ラテン・ビートと早くもGraham Learのドラムが叩きまくり。哀愁の漂うスロー・ナンバーと共にここからがジノ・ヴァネリの真骨頂と言ったところ。タイトル曲のめまぐるしく変化して行くアレンジが素晴らしい。
storm at sunup (1975)
 序章〜本編〜エピローグと組曲仕立てになっているタイトル・ナンバーで始まる3rd。高速4ビートになったり雄大に歌い上げたりと、のっけからアレンジの妙をガツンとくらってしまう。ハーブ・アルパートの名前はこの作品から消え、ジノとジョー二人のアイデアが躊躇なく発揮され始めたのがこの作品からだったのでしょうね。ドラムが叩きまくって強力なハード・プログレ・ポップスへと進化していった感の強いアルバム。続く“love me now”〜“mama coco”はメロディーと言い変化しまくるアレンジと言い鳥肌モノの展開。そんなジノの激変アレンジは“where am I going”でクライマックスとなり、これで「B面1曲目のドラマ」がアルバム恒例企画となる。もうひとつの魅力でもある叙情的なスローもメロが良くなったようで、アルバム一枚通してさらに味わい深くなった感あり。サウンド構成に重要な位置を持つようになってきたギターはここから「a pauper in paradise」までジェイ・グレイドンが担当。
the gist of the gemini (1976)
 アルバムがひとつのドラマになっている。この頃のバネリ兄弟はそんなコンセプトでアルバムを作っていたのではないかと思われるほど、さらに重厚感が高くなった4th。繰り出すアレンジもメロディーもヴォーカルも、すべてがヘヴィー級だがジェイ・グレイドンのソロが素晴らしい“a new fix for '76”でガラッとアメリカン・ポップスに変えてしまうところのセンスは脱帽。そして心して針を落とさなければならなかったside-Bではついに組曲「WAR SUITE(戦争組曲)」をやってしまいました。ジノでなければ表現できないヴォーカルに負けずとも劣らない叩きまくりのドラムス、そしてジョーのキーボード。大盛りあがり大会です。「もう、音楽で物語を作ってしまおうぜ」そんな二人の会話が聞こえてしまいそうな、二人の才能が遺憾なく発揮された芸術的ポップスのひとつの頂点。

a pauper in paradise (1977)
 side-Aが単発5曲のポップな構成で、これまでのジノの曲と比較してもやや軽めなチューンで占められているが、ひとつひとつを抜き出してみても“valleys of valhalla”でのコーラスと絡む熱いヴォーカルとサックスのソロの妙や、後にカバーする者も現れるほどの味わい深いバラード“the surest things can change”など佳曲ばかり。これだけでも十分にジノに浸れるところがside-Bではロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラをバックに片面全てを作り上げてしまった。彼らの音楽センスならオーケストラと対等に、いや十分「バックに従えて」やれる実力があるし、音作りの頂上点として一度はやらなければならなかった試みと言えるでしょう。「side-Bのドラマ」はここに極まり、以後は組曲から手を引き1曲4〜5分のドラマに力を注ぐ方向となります。そして、あの名作が生まれるわけですね。
brother to brother (1978)
 時は大まかな音楽的カテゴリー崩壊の波が本格化した頃、素晴らしいアルバムが誕生しました。これまで様々な試みにチャレンジし、重厚かつハイ・センスなポピュラー・ミュージックを作ってきた彼らが辿りついた究極の9曲。まさにドラマティック&ロマンティック。駄曲のない完璧な構成はこれまでの壮大な組曲仕立てを交えたアルバム作りとはまた違う、最高の楽曲達を織り込んだ一枚のドラマを作り上げてくれました。1曲目の「appaloosa」からいきなりぶっ飛ばされたら最後まで一気に聴かざるをえない流れ。アルバムにおけるひとつの特徴であったドラムスのパフォーマンス(今回はマーク・クレーニー)もさることながら、カルロス・リオスの生涯ベストプレイとも言えそうなギターとジミー・ヘイズリップのベースも強力で、AORのみならず生粋のハードロックファンにも大受けしました。そしてヴァネリ・ブラザース第三の男であるロス・ヴァネリ作の「I just wanna stop」は全米4位の最大ヒットとなり、ジノの代名詞的なナンバーになった。硬派でありつつも幅広い層に訴える力のある、ミュージシャンズ・ミュージックでありながら外向きにも成功した稀有な傑作。説明はいらない。必聴!
night walker (1981)
 彼が今でも活動を続け、その名が語り草となっているのも、「Brother to Brother」で終わらずにこのアルバムを発表していたからではないかと思います。アリスタに移籍をして残した唯一の作品ですが、前作で頂点を極めたドラマティック・ポップスのスタイルを保ちつつ、オーバー・アレンジ感(そこが、ジノの好きな所なのですが)を和らげた、よりPOPに親しみやすい佳曲揃いのヒットアルバムとなりました。ドラムスがヴィニー・カリウタになり、しなやかかつテクニカルなスティックさばきはサウンドの核をドラムスに置くジノ・サウンドにはカッチリと嵌る。まとまり過ぎている分、一つ一つの楽曲がきっちりと区分けされているようで、次々と襲ってくるような感動による鳥肌の立ち方は前作に一歩譲りますが、逆に各インストルメンツのプレイを重視したり曲そのものの聴きやすさとしてはAOR好きならこちらがベストとして選ぶ人が多いのではないでしょうか。
black cars (1984)
 恐らく、私と同じようにこの作品をショッキングに受け止めた人が多かったのではないでしょうか。どこかの雑誌での論評に「ジノも現在進行形のアーティストなのですね」と言っていたのを覚えています。AORブームが急速に衰退し、世はMTV時代に。レコード会社をまたまた移籍した彼にも大きな変革を余儀なくされたのかもしれません。
big dreamers never sleep (1987)
 前作での衝撃の変身からさらに3年。またまたまたレコード会社の移籍と80年代のジノはかなり地に足がついていないような印象がありますね。サウンドは前作のエレクトロポップ路線をそのまま引き継いでいますが、もう少しメロディーにも重点を置いた聴きやすい作りになっています。再発CDは本国でも現在廃盤となっているところにこの作品の評価のほどがわかるところですが。
inconsolable man (1990)
 変革を意識しすぎてかなり浮いてしまったような80年代でしたが、この作品あたりからやっと落ち着きを取り戻したようです。ただ、もはや若気の至りであったハードプログレッシヴポップ路線に戻れるわけもなく、そのヴォーカル力を生かした一シンガーとしてのアルバム作りをしています。メロディーラインだけは70年代に戻ったようなナンバーもあり、とりあえずひと安心といったところでしょうか。
live in montreal (1991)
 と、思ったらこんなアルバムを出してくれました。「crazy life」から各アルバムの代表曲をセレクトしたベスト的ライヴ・アルバムです。この選曲は嬉しいかぎりですね〜。オーディエンスが何を求めているのかはしっかりと理解していてくれて良かった良かった。そうそう、私も行きましたよ日本公演に。やっぱりドラムが叩きまくっていました。
yonder tree (1995)
 ウッドベースを多用していて、いかにもジャズ的なアプローチの強いアルバムなのですが、スタンダードをカヴァーするなんてインスタントな作りではなく、全曲ジノのオリジナル曲で綴られた、これまた別方向の変化を見せてくれました。ジャジーでありながら、70年代に作られた曲、独特のメロディーラインが随所に現れるところが興味深い作品です。A&M時代初期にインパクトの強いドラム・プレイで印象的だったグラハム・リアーがここで再会。
slow love (1998)
 これはちょっと嬉しいかも。これまでさまざまなスタイル、実験をしてきたジノ・ヴァネリですが、この作品でついに正攻法のヴォーカル・アルバムを作ってくれました。全体的にミディアム・スロー展開の曲調で、じっくりとセンスの良いAORを堪能できます。激しさはないですが、出るべくして出たアルバムと言えるでしょう。一時はとても危機感を覚えたアーティストでしたが、やはりその卓越した音楽センスは簡単に消えるものではなかった事に安心しています。今度はどんな作品を発表するのか期待が持てますね。
canto (2002)
 本作は自らの「血」を受け継いだイタリア語を中心とした、クラシカルなムードも漂う「ヴォーカルアルバム」。自分としては、ついに出るべくして出たアルバムと言えます。この人の情熱的な力強さや、表現力豊かな優しい歌は元々こういったヨーロピアンPOP/ヴォーカルからクラシカルなアレンジに相性の良い性質のものであったし、その卓越したヴォーカル力はそういった音の中でこそ生きてくる(と言ったら言い過ぎか)事は彼自身も良くわかっていたのでしょう。しかし、凄いのは「yonder tree」のジャジー・アルバムにしても今回にしても、すべてオリジナルであると言う事。いずれも実力がなければできないスタイルの音楽でありながら、オリジナル曲で一枚作り上げてしまう才能。これもまたもうひとつの「ジノ・ヴァネリ」なのですね。
the ultimate collection (2003)
 数あるベスト盤の中でも究極のセレクション。CD3枚組で聴き応えもありますが、ここでの目玉はシングルのみの発売であった1981年の“the longer you wait”が収録されている事。シングルらしいpopな曲調にあの頃のジノの、また違った一面が感じられて嬉しい。 DISK:1は「CRAZY LIFE」から「BROTHER TO BROTHER」までのA&M黄金ベスト。それこそ、自分がカセットテープで作っていたベストとほぼ同じ選曲で素晴らしい!誰でもこの一枚を聴くだけですべてのアルバムが欲しくなってしまう事でしょう。(欲を言えば“the river must flow”を入れて欲しかった‥) DISK:2はそれに続く選曲なので「NIGHT WALKER」からと思いきやなんと一曲目は“wheels of life”!この曲配置はニクイの一言。その後はしっかりと「NIGHT〜」から「INCONSOLABLE MAN」までの選曲なのですが、当時は衝撃的だった80年代のエレクトロポップ化も今ではその必然性が理解できるようになりましたね。 DISK:3では前述“the longer you wait”を筆頭に“black cars”のdance mixが続き、モントリオールライヴ盤〜「YONDER TREE」〜「SLOW LOVE」からともう完璧。3枚一気に聴き終えると、あらためて時代に埋もれる事なく進化をしつつ、かつ自らのオリジナリティを音に反映させ続ける事ができたジノの音楽的才能に脱帽。このデジタル・リマスター3枚組ベスト、アルバムを全てお持ちの方にもおすすめできる内容です。さあ、買っちゃいましょう。
these are the days (2006)
 前作「CANTO」の良し悪しは別にして、今作は「戻ってきた」感のある音作り。前半7曲が新曲、後半7曲が今の曲調と違和感のないように考えられた「BLACK CARS」あたりの80年代を中心とした旧作からのセレクトといった構成で、こうやってあらためて聴き直すとあのエレクトロポップ化が必然的なものであった事がわかりますね。こうなるともはやお決まりのように収録されている“living inside myself”や“I just wanna stop”などの代名詞的なナンバーから考えを切り替えても良いのではないかと。 さて肝心の新曲7曲ですが「戻ってきた」と言うのはヨーロッパから北米へと言った感じでもあり、今回はポピュラー・シンガーに徹したものでその中でも多彩なサウンドに乗って歌い上げているのですが、1曲目の“it's only love”から2曲目の“venus envy”へたたみかける曲配置は久々に感動してしまったほど。できれば旧作と半々ではなく一枚のフルアルバムとして聴きたかったですね。
a good thing (2009)
 3年の間をおいて届けられたのはDVDサイズのデジパック仕様に23の詩集本付きといった趣向。もちろん彼のファンにとっては大サービス盤でしょう。やや自己本位的な音作りに対する姿勢も、これだけの実力、これだけのキャリア、これだけの音楽的地位が認められた彼だからこそできる技。今回は全体的に落ち着きのあるジャジー・サウンドをベースとしつつ、「yonder tree」とはまた違ったポップで緩急を使い分けたゴージャスなヴォーカル・アルバム。もちろん全曲オリジナル。この人は自分が良くわかってますね。このたぐい稀な歌声を持つ者が表現する音の可能性を拡げようとしないなんてもったいない事。前々から知るリスナーにとってはこれも「納得」のアルバムでしょう。しかも、今回はやっている音楽に対する自信に満ち溢れていることがその音から伝わってきます。何をやってもジノ・ヴァネリはジノ・ヴァネリなのでありました。偉大。
the best and beyond (2009) new!!
 コチラでドーゾ。


もうひとつのGINO VANNELLI
 そのサウンドイメージからアメリカよりもヨーロッパでのプロデュースアルバムが多いようで、ジャズ・フュージョンのコーナーで紹介したドイツのギタリストFrank Nimsgernの「street stories」も面白いアルバムでしたがそれ以外にもこのようなアルバムがチラホラと…

KUDASAI (1991)
 デンマークの二人組ユニットをジョー&ジノがプロデュースしたアルバム。このバンド名って日本語の「下さい」をそのまま読んだらしいですよ。実際に日本語が出てくる曲もあります。意味がメチャクチャなんですけどね。10曲中6曲と大部分をプロデュースしていますが、全体としてはパワフルでメロディアスな北欧ポップ。このころのヴァネリ・サウンド(「inconsolable man」あたり)を忠実に移植したかのような雰囲気です。Mark Craney(ds)やMike Miller(g)ら当時の共演ミュージシャンもしっかりと参加。ヒット性を意識した作りだっただけにもう少し話題になってもよかったアルバムですね。
Niels Lan Doky/haitek haiku (2001)
 これもデンマークのピアニストをジノ・ヴァネリがプロデュースしたアルバム。ジャケットにもフィーチャリング・Gino Vannelliとなっているくらい前面に出ていて、ユニットアルバムと言ってもいいでしょう。ただしサウンドは基本的にピアノ・インストルメンタルアルバムで、ジャズでもフュージョンでもクラシックでもなく、あえて例えるなら坂本龍一的な感じ。たしかに前からジノのサウンドはヨーロッパのイメージがあったのですがちょっと面白い仕事ですねこれは。しかし、タイトルの「ハイテック・ハイク」って、何? ハイクって「俳句」? また日本語ですか? デンマークと日本語使いとジノ・ヴァネリの意外な共通性をここでも発見してしまったのでした。

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