新旧問わず、最近ハマっているアルバムを紹介します。





Flora Purim & Airto/the magicians (1986)
 
 ご存知フローラ&アイアート夫妻の86年作。80年代以降の二人の作品はノー・チェックだった私、出された時期が時期だけに、そしてまったくヒネリも飾り気も何も無いこのジャケットからしても全く期待をしていなかったのですが、聴いてみてあらびっくり。またもや手に入れただけで放っておいたCDがヘビー・ローテーション状態になってしまったという嬉しい誤算をしたのでした。

 この夫妻はブラジル出身としては最も有名なヴォーカルとパーカッションのユニットではありますが、この時期あたりから注目をされ始めた所謂MPB(ブラジル・ポヒュラー・ミュージック)・アーティストとは異なり、すでに60年代と早くからブラジルを離れアメリカに渡っているわけで、一躍その名を轟かせた大名盤、あのカモメのジャケットのアルバムに参加などジャズ・ミュージシャンと音楽活動をしてきた異色の存在。勿論自身の音楽ベースとなる“ブラジル”を確固として持ちつつも、ジャズを中心としたアメリカ音楽に自ら近づいて行ったわけですね。その微妙にアメリカナイズされた音楽性がこのアルバムでも見事に花開いていたのです。

 さてさてアルバムの内容。一曲目を飾るのはなんとスローなブルース。“ど”が付くくらいの場末の酒場的ナンバーで幕開けだから面くらっちゃいましたが、元々はクラシック音楽を教わっていたフローラに母がブルースを歌えと勧めたと言います。奇しくもこの年はフローラが19年ぶりにブラジルの母の元へ帰る事ができた時であり、何か思うものでもあったのでしょうか。そして続く“garimpo”からが本来の二人、と言うわけで、日本でも人気の出てきたジャヴァンの曲をやってたり、ケニー・ロギンズがバックでコーラスする“bird of paradise”はジョージ・デュークがアレンジするだけあってこれまた“ど”が付くポップ・ナンバーと、ブラジルを感じさせながらアメリカ側に立った音作りの洗練度合いが一段も二段も違うところがMPBとは一線を画すところ。ちなみにアルバム・タイトル曲“the magicians”は75年のアルバム“identity”でエグベルト・ジスモンチと共作しオープニングを飾ったナンバーの再演。ここぞとばかりにアイルトが気持ちよさげに歌ってハッピーなブラジリアン・ポップですね。さらにラストはG・デューク作の“love reborn”! デューク自身、何度もアレンジを変え再録をしていますが、フローラとしても名盤“butterfly dreams”で元々はデュークのインストナンバーであったこの曲に詞をつけて歌ったのが初めて。それぞれをここでまたやると言う事は何か思い入れの強い曲だったのかもしれませんが、コンテンポラリーでありながら、70年代も忘れてはいないところは古くから知る人にも嬉しいじゃないですか。

 最初からアメリカに可能性を見出して飛び込んで行った二人、70年代後半のワーナー・ブラザーズ時代は二人ともメジャー・レーベルの圧政に屈し混沌とした活動をしていたようですが、同じコンテンポラリー・ミュージックでもここでは吹っ切れて颯爽としていますね。そうそう、フローラと言えばやっぱりウニウニな変態スキャットが炸裂していた“Open Your Eyes You Can Fly”や“Encounter”ら70年代一連の作品が一番! と言う事になるのでしょう。確かにドラッグに染まったその歌声で作られたアルバムも彼女そのものなのですが、ひと皮むけてしっかり歌と向き合っているこのアルバムもまたアリではないかと。いやー、まだまだこの二人は他にもたくさんあって困っちゃいましたねこれで。(2009/03/05)



1. SWEET BABY BLUES
2. GARIMPO
3. ESQUINAS
4. BIRD OF PARADISE
5. THE MAGICIANS
6. JENNIFER
7. JUMP
8. TWO MINUTES OF PEACE
9. LOVE REBORN



Produced by Airto Moreira

Flora Purim (vo)
Airto Moreira (ds,perc)

George Duke (key)
Kei Akagi (p,key)
Marcos Silva (key)
Ricardo Peixoto (g)
David Zeiher (g)
Larry Ness (g)
Gary Brown (b)
Bob Harrison (b)
Randy Tico (b)
Keith Jones (b)
Chas Thompson (perc)
Tony Moreno (ds)
Jeff Elliott (tp)
Mary Fetting (sax)
Daniel Reagan (tb)
Kenny Loggins (vo)

and others,..




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