Alphonse Mouzon/the man incognito (1976)
 
 アルフォンス・ムザーンと言えばトミー・ボーリンの参加したジャズ・ロックアルバム「Mind Transplant」となるのでしょうね。確かにこの頃のクロスオーバー/フュージョンのインストで何を聴くのかとなると、それぞれのプレイヤーの技巧に焦点を当てられ、演者・聴き手共に演奏テクニックとしてどれだけ魅せられるかにばかり重きを置いていたところがありましたから。時代が変わり聴き手の焦点はテクニックよりも音楽性、こと黒人音楽は黒人音楽らしいグルーヴそのものに移って行った。そこで、この「The Man Incognito」のCDリイシューですよ。往年のフュージョン・ファンでも「Mind Transplant」の影に隠れほとんど忘れられていたこのアルバム。前作とは一転、ジャズ・ロックではなくヴォーカルも入るジャズ・ファンクをやっている。元々はポイントの絞りきれていない雑多過ぎるナンバーの集合体「Funky Snakefoot」を作っているくらい幅広い音楽性の持ち主、アルバムによってスタイルが変化するのは別に驚く事ではないのですが、ことソウルなフュージョンに関してはよほどそのグルーヴ感が好きでないとただのカッたるい音楽。一聴して演奏テクが聴き取りにくいものであれば当時として「誰が聴くんだよ」的な扱いを受けていたのでしょう。当然ながら国内盤は未発売、CD化もされずに今日まで来たわけです。そこのところは今回リイシューに手をつけたUKのレーベル、さすがめざといですな。

 さて、このジャズ・ファンク作「The Man Incognito」、その「mind transplant」同様にSkip Drinkwaterのプロデュース、ZEMBU・PRODUCTIONSの仕掛けによるものなのですね。この時期のクロスオーバー/フュージョンやニュー・ポップを取り上げる点で重要なアルバムをさりげなく連発して作っていたプロデュース集団。当然レコーディングメンバーもその息のかかったプレイヤーとなるわけで、ここでもリー・リトナーがギターで重要な役割を担っている。しかし、ここでなんと言っても注目なのは契約の関係によりDawilli Gonga名義としてほとんどの曲に参加したジョージ・デュークでしょう。moogやarpシンセサイザーで長々とソロを取る曲が多く、中でもラストの“behind yor mind”はソウルな流れにカッたるさを感じていた者には待ち望んでいたジャズ/フュージョン。ここぞとばかりにA・ムザーンが叩きまくり、G・デュークのまるでギターソロを聴いているような独特のフィーリングで弾くシンセが飛び回る内容。その他のナンバーでも存在感があるプレイを聴かせてくれるので、デューク好きにとっても楽しめるアルバムとなっている。アルバムにおけるキーポイント・ミュージシャンとして、トミー・ボーリンやジョージ・デュークの起用は同時期のビリー・コブハムに対抗していたかのようですね。また、若きデヴィット・ベノワがピアノで全曲参加や1曲のみだがデヴィッド・T・ウォーカーがソロを取る“New York City”の収録など、各人のプレイを聴きたい人にもこれはナニゲに味のある作品なんですね。全体としてはソウルを基調としたエンタテイメントな作りなのだけれど、つまらないカバーなどはなく全てA・ムザーンのオリジナル。つまり、当時のトレンドとして仕方がなくやらされていたわけではなく、本人の音楽センスがこのタイプの音楽でも素直に出ている作品であったと。ハービー・メイソンしかり、ナラダ・マイケル・ウォルデンしかり、レニー・ホワイトしかり。この系統の黒人ドラマーは皆ソウル/ブラック・コンテンポラリーの方向に一度は向かっていますが、このA・ムザーンはその中でも比較的ソロ・デビューも早く、この類の音楽に手をつけるのも先人であったにもかかわらず、どうもそのムーブメントにうまく乗り切れなかったようですね。まあ、「Mind Transplant」と言う代表作があるから良いのでしょうけど。

 ブログの方に貼っているつべのクリップで、取り上げたい音楽が無い時に自分でアップしたりしていたのですが、初めてクレームがあり動画削除されたのがこのアルフォンス・ムザーンのプロダクションでしたね。その時は良い思いはしなかったのですが、今では「そんな事もあるからやり方に気をつけろ」と言う事を教えてくれた人でもあったわけで。まぁ小さな出来事は気にせずに、今回のようなありがたいリイシューもあるわけですからいちリスナーとしてこちらもありがたく聴かせていただきましょう(笑)。 (2012/6/29)



01.TAKE YOUR TROUBLES AWAY
02.SNAKE WALK
03.BEFORE YOU LEAVE
04.JUST LIKE THE SUN
05.YOU ARE MY DREAM
06.NEW YORK CITY
07.WITHOUT A REASON
08.MOUZON MOVES ON
09.BEHIND YOUR MIND→


Produced by Skip Drinkwater for ZEMBU PRODUCTIONS,INC.
Executive Producers : George Butler and Jerry Schoenbaum
All arrangements by Alphonse Mouzon
“TAKE YOUR TROUBLES AWAY”arranged by Skip Drinkwater and Alphonse Mouzon


Alphonse Mouzon (ds,perc,vo,key,syth)

Dawilli Gonga [George Duke] (key,syth)
Lee Ritenour (g)
David T. Walker (g)
Tim DeHuff (g)
Charles Meeks (b)
Dave Grusin (p,key,clav)
David Benoit (p,key)
Victor Feldman (perc)
Emil Richards (perc)
Tom Scott (ts,bs,lyricon)
Ray Pizzi (ts,as)
George Bohanon (tb)
Gary Grant (tp)
Marty McCall,Jackie Ward,Caroline Willis (vo)





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