70年代後半から80年代にかけての大ヒットで、ブラック界のウルトラグループに君臨したアースですが、打ちこみ系サウンドが主流となった90年代には彼らのようなバンドスタイルのブラックミュージックは急速にパワーダウンをしてしまい、アースもそんな大きな時代背景に呑み込まれてしまいました。しかし、彼らが作り出してきた偉大なナンバーの数々は21世紀となった今、歴史的ブラック・スターグループの代表的存在として再評価されています。熱狂的信者ファンあり、ダンス系ミュージックとしてのファンあり、このグループを愛する人々は様々ですが、私個人としてはフリーソウル的で、クロスオーヴァー・フュージョン的でもありながら時代の音をうまく取り入れて快進撃をしていった70年代の音を一番好んで聴いています。
 様々なベストやリミックス、ライブアルバムなどが発売されていますが、やはり今も聴き続けるファンが多く、また音楽性の高さから再評価され、新たにアース・グルーヴに興味を持ち始める若年層のブラック・フリークが増えてきているからでしょう。それだけ人々の心にいつまでも残り続けるナンバーを数多く作り出してきた偉大なグループである事の証であると言えますね。私個人としてはオリジナルアルバムだけに興味を持ったため、完全なディスコグラフィとして紹介するには程遠いのですが、基本的な部分でアースを楽しむにはこれで充分だと思います。

earth,wind&fire (1970)
 アースの歴史は、その当時の音楽的傾向を鋭く察知し、うまく吸収、消化して作り上げて行くスタイルの繰り返しではなかったかと、このデビューアルバムを聴いても感じますね。元々モーリス・ホワイトがジャズマンであったためジャズ的要素が強いのですが、やはり一味違うブラック・ロック、ブラス・ロックなのです。そういえば、血、汗&涙なんてバンドもいました。なにか共通するものを感じます。ジャケ画は心霊写真を連想してしまいます(笑)。
the needs of love (1971)
 デビュー作に続き、ブラス・ロックバンドとしてはかなりジャズ寄りである事を感じさせるオープニングで始まります。HEADHUNTERSのような雰囲気ですね。商業的な部分はあまり感じさせない作りで、1曲が長いです。これも、時代ですね。
last days and time (1972)
 移籍によりレーベルが変わり、アカ抜けたPOP寄りのサウンドになってきました。ラリー・ダン、アル・マッケイ、フィリップ・ベイリーはこの作品から参加。アルのギターカッティングが強調された楽曲が多く、この作品だけのメンバーであったロニー・ロウズのサックスソロが入るジャズ・ロック・インストルメンタルもあり、渋い作りとなっています。アース・サウンドの象徴的楽器カリンバも大きくクローズアップされています。
head to the sky (1973)
 初期の代表曲の一つ、「evil」がこのアルバムの最初に。よりボーカル曲に力を入れたside−Aでまずガッチリとつかみを入れて、ラストは10分を超える大作「zanzibar」へ。必ず長めのジャズロック・インスト物を入れるのがこの頃の特徴でした。万人受けを狙う部分も見せながら、スピリチュアルな演奏も重視し、両者を共有するバンドスタイルを確立していったようです。
open your eyes (1974)
 アースの裏名曲とされる「devotion」が収録。一曲大作志向に終止符を打ち、よりポップに、バラエティ豊かな全10曲。他のアーティストにも言える事ですが、70年代中期はシンセサイザーなどの楽器製造技術の急速な進歩により、サウンドが今聴いても四半世紀以上前の曲として古さを感じさせないものが増えて来ました。side−Bはコーラスのみのヴォーカルが入る程度のインスト物中心ですが、一曲がこれまでよりも短めで、聴きやすくなっています。
that's the way of the world (1975)
 モーリス・ホワイトを中心とするメンバー一人一人の個性もさることながら、とりわけアル・マッケイがカッティングするギターの存在感ったらもう・・・。ラリー・ダンのシンセinterludeといい、よりボーカルに力を入れ、ブラック・フィーリングたっぷりの楽しい作りでありながら、アルバムとしては芸術的とも言えるほど高い完成度を誇っていると言えます。
gratitude (1975)
 2枚組ライヴ・アルバムと言いたいところですが、最後の片面5曲はスタジオ録音という変則構成となっています。これがまた絶妙の味。大部分を占めるライヴは「sun goddess」を含むインストルメンタル・ナンバー揃いで、この時期のクロスオーバー・フュージョンバンドのライヴとして聴いてもかなり強力なバンドであったと感じられます。そして、ヴォーカルナンバーでの後半5曲によって大満足。次の作品への期待感を増大させるニクイ作りですね。
spirit (1976)
 人によってはこの作品が頂点と推すほどの本作。一曲目の「getaway」からいきなりぶっ飛ばされます。アル・マッケイのリズムギターがさらに強力なグルーヴ感を出し、フィリップ・ベイリーの存在感が特にこの作品から顕著になり、特にソロヴォーカルをとったタイトル曲は彼がアースで残したソロの中では一番ではないかと思います。必ず収録されているインストナンバーはここでついに「これぞアースの音が完成!」と言ったところで、後のアースサウンドにも反映されています。
all 'n all (1977)
 純朴な私を暗黒の(?)ブラックワールドへ導いた運命の一枚。異論はあるでしょうが、70年代の一連の作品の中で、一つのピークを迎えた作品であると思っています。とにかく曲の構成、内容がすばらしく、レコードに針を落としたら、途中で止めずに最後の曲まで続けて聴かざるをえなくなるアルバムというのは、アースのオリジナルアルバムの中ではこれが最後だった気がします。ラリー・ダンの宇宙的シンセはここで一気に完成の域に達しました。ブラジリアン・アレンジにさりげない味付けをしているのが、あのエウミール・デオダート
I am (1979)
 絶頂期のピーク的作品としては、この作品もあげられるでしょうね。前作が芸術的とも言えるほど完成度の高いものだったので、発売された時は、それはそれは期待を持って針を落としたものです。デビッド・フォスターTOTO等白系のリズムを導入して、グループの大きなターニングポイントとなった作品です。とにかく最初から痛快!このスピード感は前作までにはなかった感覚で、これは別の意味で文句無しの内容。
faces (1980)
 一度ピークを迎えてしまったアーティストというのは、次も「何かやらねばならない」というプレッシャーがあるもので、そういった思いがヒシヒシと感じられる2枚組大作。個人的にはアースはアル・マッケイがいてこそ・・・という思いがあり、この作品を最後にアースの新作にはトキメクものを感じなくなって行ったような気がします。TOTOのメンバーが継続参加で、前作の内容をさらにゴージャスにしたような内容となっています。
raise! (1981)
 ところがどっこい、ディスコサウンド全盛時代に、アースは「let’s groove」でまたまた新しいファンをつかむことができたのでした。ここがこのグループのすごいところですね。この曲を発表していたか、いなかったかでその後のブラックミュージック界におけるアースの歴史は大きく変わっていたのではないかと思います。底力と言っては失礼ですが、そんな感のある作品でした。
powerlight (1982)
 今考えると一年に一枚コンスタントに新作を発表して行くのは大変な事ですよね。しかも、彼らくらいになると毎回求められるものが大きいので、それはそれは大変な時だったと思います。1曲目のコケおどし的なイントロがハナにつくようになってしまい、またそれが心配にもなったものですが、今あらためて聴いてみるとそんな思いがするのでした。
electric universe (1983)
 それで、まったくもって評価の悪い本作品と次作品となるのですが、特に、この作品は何か新しい事をやらなければならない、時代の波に乗り遅れてはならないと言ったプレッシャーが究極の域に達してアイデアを搾り出すようにして作られたような感がありますね。打ちこみの多用で当時はガッカリさせられましたが、今では冷静にそう考えてあげましょう。
touch the world (1987)
 この頃はすでにそれぞれがソロアルバムを発表していて、特にフィリップ・ベイリーは「イージーラヴァー」の大ヒットや、別方向でゴスペルアルバムを発表していたりで「アースもついに分裂、解散か?」と噂がたったものです。本作ではジャケ写から見ても、何かフッ切れたような雰囲気がありましたが、以前の大きなイメージ、「4年ぶりの新作」と言う期待感と、実際の音が同化せず欲求不満になってしまった覚えがあります。
heritage (1990)
 前作の中途半端な作りでグループの危機的イメージが蔓延していましたが、レコード会社も移籍して、見事に復活を遂げました。M,C・ハマーをゲストにラップを取りいれて、時代の要素をうまく吸収しながらアースサウンドを作り出して行くスタイルはここでも引き継がれています。圧倒的なインパクトはもうありませんが、聴きやすい曲が多く好感が持てます。
millennium (1993)
 横尾忠則のジャケ画はもうメチャクチャ!何でもかんでもブッ込んだ、という感じで、長岡秀星の頃の壮大な雰囲気が懐かしいですね。まあ、サウンドからそのようなイメージを持ったのかどうかは知りませんが、後期アースの第2弾はなかなかこなれたようで、バラエティ豊かな聴きごたえのある内容となっています。
greatist hits live (1996)
 うわー、いいなあ。全18曲たっぷりと黄金のラインナップで綴るベスト盤的ライヴです。「I am」からの選曲が多く、70年代の代表曲が中心の構成。欲求不満気味だったアースへの思いもこれでやっとひと区切りできた気がします。日本(ベルファーレ)でのライヴですが、ここまでの大盛り上がり大会は本国アメリカではもうできないのでしょうね。つくづく素晴らしい国だと思います。
avatar (1996)
 コケおどしのアレンジも無いし、ゲストミュージシャンに大物がいるわけでもなく、いかにもローコストで作られた感のある作品なのですが、肩の力が抜けたのでしょうね。ド派手なアースが好きな人には物足りないかもしれませんが、ファンキーソウルの小品として聴けば、ヘタなアーティストのつまらないCDを買うよりははるかにいいでしょう。アースはアースなのです。
live in RIO (2003)
 日本はベルファーレでの「GREATEST HITS LIVE」もそれはそれで良かったのですが、これはなんと言っても1980年というまさに黄金期のライヴ。メンバーが若く、当時の素晴らしいナンバーをやってくれちゃっています。とにかくラリー・ダンとアル・マッケイ、フェニックス・ホーンズが居るライヴなのです!!今これを聴くと違った意味で泣けますよ。ホントに。「ALL N' ALL」と「I AM」中心の選曲で、嬉しいことにあの「brazilian rhyme」も収録されています。オリジナルとはまた少し違ったアレンジであのスキャットですよ。まいった。やられた。
the promise (2003)
 めでたく7年ぶりにニュー・アルバムが届けられました。うん。良いですよ。このサイトをご覧になってご自分の好みの音楽と重なる方は問題なく聴いていただけるのではないでしょうか。まず、モーリス・ホワイトの元気な歌声がしっかりと聴けること。これだけで買いだと思います。たしかに、これがアースか?と言われれば、いや。。。と間をおいてしまうのでしょうが、それでも、モーリスやフィリップ・ベイリーの歌声、そしてカリンバの音色がしっかりとそこにあればアース・ウインド・アンド・ファイアです。何も新しい事はやっていないし、鳥肌が立つような感動もありませんが、全編グッド・ブラックの佳曲揃いです。安心してください。Ross Vannelli(Gino Vannelli弟)やCarlos Rios作の曲が収録なんて発見もありました。また、あえて言わせてもらうなら「let's groove」あたりでアースをダンスミュージックバンドと認識しちゃってるズレた方には聴いてもらわなくても結構。しかし、曲数をもう少し絞ってコンセプトをしっかり感じ取れる作品作りをしてほしいという希望はありますね。
illumination (2005)
 M・ホワイト、P・ベイリー、V・ホワイト、R・ジョンソンの4人を核とする2005年新作。言うまでもない話ですが、まずこのグループが今、作りえるベストなサウンドでアルバムが作られた、その視点で聴いていただきたい。過去の栄光にすがり、バンド再結成でもうひとヤマ当てる的なものとは次元が違う姿勢でモノを作っているということです。ただし昔を知っているほとんどの方はこの音を聴いて「ん?モーリスやフィリップのソロアルバム?」とした方が良かったのではないかと言うほど、アースでなくても良く耳にする傾向のバックトラックに乗せて彼らが単に歌っているだけと言った印象を持つのではないでしょうか。それというのも今回はラファエル・サディークやブライアン・マックナイトといった「今」の人達によってそれぞれのナンバーがプロデュースされているのです。元々今回はそんな旬のアーティストとEW&Fのコラボレーションをコンセプトにしたそうで、聴いている私達の感想を「でしょ?」と返すEW&Fの面々が笑っていそうな気がします。元来このグループは時代の音をいち早く吸収し、昇華した形でアース・サウンドを表現していたのですから今回も何一つ不思議なことはありません。強いて言うなら、以前は先進的であったのに対し、今は追随的と捉えられてしまう事です。それが率直な「感想」。しかし、そこにあるのは紛れもなく「今のEW&F」であり、へたなNCソウルに手を出すよりはよっぽど中身の濃い音が楽しめる喜びがあるのも事実ですヨ。
now,then&forever(2013) new!!
 フィリップ・ベイリー、ヴァーディン・ホワイト、ラルフ・ジョンソンの3人になってしまったアース・ウィンド&ファイアの最新盤は前作から8年ぶりでした。過去の作品を聴き直し、初期に立ち返ったサウンドを意識したらしいのですが、確かにフェニックス・ホーンズばりにブラス・セクションを目立たせたり、アレンジにそのようなところは見えるのですが、音は完全に今のもの。ノスタルジックに浸らず今現在の彼らを素直に楽しんだら良いのではないでしょうか。特筆すべきはラリー・ダンがゲスト参加しているところ。これだけでもこのアルバムは買い。もはや難しくなったアル・マッケイの復帰や、さらに難しいモーリス・ホワイトの帰還も望めないだけに、現状出来る限りのアースの原点回帰は行ったと見るべきか。ちょっと危なっかしくなったP・ベイリーのファルセットに時の流れを感じながらも、いやいや、良くぞこれを出してくれましたと讃えたいじゃあないですか。70年代、とはいかなくとも、大目に見て80年代後半くらいまでには戻ってくれている。そんな嬉しさは確実にあります。


もうひとつのEarth,Wind&Fire

Larry Dunn ORCHESTRA/lover's silhouette (1992)
 トパンガ・エキスプレスで不完全燃焼的に復活した後に発表されたアルバムだけあって、今回は全編ポップ・インストルメンタル(数曲ヴォーカル曲あり)で固められた比較的聴きやすい内容となっています。とは言っても、アース在籍時に見せていた宇宙的なシンセサイザーや独特なリズム感のあるスタイルは影をひそめ、かなり落ち着いたイージー・リスニング・フュージョンと言えるでしょう。アル・マッケイ、ラルフ・ジョンソンの同期アースメンバーや、お馴染みロニー・ロウズグレッグ・フィリンゲインズバイロン・ミラーらが参加。

Al McKay ALLSTARS/al dente (2001)
 EW&Fは、ピラミッドであったり、人類だとか叡智だとか創造だとか、音を楽しむ方にとってはオーバーとも感じられるほどコンセプトが重かったりしたのですが、このアルバムは、そんなことはどうでも良く、純粋なブラック・アルバムとして楽しむのが正しい聴き方だと思います。ゲッタウェイ、セプテンバー、シング・ア・ソング、そして、ラヴズ・ホリディまで!アースが一番自然な姿であったあの時代の名曲が「今」のシンプルなアレンジによって甦りました。ジャケ画のアース・シャドウはご愛嬌。気楽にオシャレに、楽しめる一枚です。

Soul Source EARTH WIND & FIRE REMIXES (2002)
 Soul Sourceのリミックスプロジェクトによるアース・ウインド&ファイアの決定盤的リミックス集です。取り上げられているのはまさに黄金のラインナップですが、リミックスという通り原曲の音源、ヴォーカルトラックを使いながらも、まったく違うデザインの音楽に作り替えられている部分はとても痛快ですね。「afterthe love has gone」はまったくの新録(つまりカヴァー)のようになってしまっているのが残念ですが、他の曲に関してはどんなに原曲と違うアレンジをしていても、チラチラッと「あのフレーズ」が出てくるのがウレシイですね。「fantasy」では割合原曲に近いながらもアル・マッケイのリズムギターを強調した仕上げになっていて、トラックダウンの現場にいるようで楽しいです。そしてアースのinterludeでは最高の名曲、「brazilian rhyme」のリミックスは大沢伸一MONDOGROSSOが担当。あのフィリップ・ベイリーのスキャットをしっかりと使いながらもまったく別モンの曲に仕上げています。とにかく、「やっぱりオリジナルが一番!」と思っている方でも新曲を聴いているようでもあり、懐かしさを感じることもでき、理屈抜きで「楽しめる」作りになっていますので是非おすすめしたい一枚です。


もういっちょ・おまけEW&F

original animation video “GATCHAMAN”original soundtrack (1994)
 オリジナルビデオ版「ガッチャマン」のサウンドトラックをモーリス・ホワイトと80'〜90'にかけてのアースサウンド立役者であったビル・メイヤーズが担当。うう〜ん、こんな仕事まで引き受けるようになるとは。サントラですから一曲をのぞきインストルメンタルの構成となっています。全11曲すべて二人の書き下ろし作というのは単なる名前貸しの類のものではないところがありがたい事ですが、ほとんどビル・メイヤーズ色の強い音となっていて、この頃から少しそれ以前のアース・サウンドがいかにビルに仕切られていたかがわかる部分で面白いかも。

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